株式会社ヒロコーヒー外食アワード2015受賞

農園紀行 Single estate
今、世界のコーヒーマーケットの熱い視線を集めている国がある。
世界経済に重要な役割を果たすパナマ運河を有し、中南米ではコスタリカと並び最も経済的に進んでいると言われるパナマ共和国だ。
ここでは近年、その国土の大部分を覆う山脈と火山性の土壌を活かし良質のスペシャルティコーヒーを生産しておりその収量、質は共に年々向上しているという。
また国家プロジェクトとして世界的な流れであるサステイナブルコーヒーの認証を独自に行う準備も始めていると聞くが、隣国と比べるとマーケットへのリリース能力は今一歩で詳しい事までは分からない。
経験則からするとこの様な情報が乏しい産地を確かめる為にはこの目で見るのが一番。迷わず南北アメリカの中間に位置するこの小国に足を運ぶ事にした。

狭い地域に東京やマンハッタンを思わせる高層ビルが建ち並び、人口300万人のうち、100万人が集中するという首都パナマ・シティから飛行機と車を乗り継ぎ、山岳リゾート地として有名なパナマ西部のボケテ(Boquete)に向かう。
ここにコーヒーが持ち込まれたのは1870〜90年にかけてだそうで現在ではパナマコーヒーの80%がここボケテ産だという。
パナマ最高峰バルー火山の東岸に位置し、気象条件、土壌、生産高度などの自然条件がよほど栽培にマッチングしていたのだろう。言わずもがな期待が高まる。
 

  ボケテの町からさらに車で30分、標高1100mを超えた位置におそらく今、世界で最も有名な農園の一つであるエスメラルダ農園がある。
彼らは希少かつ非常に高価であり、モカに似たフレーバーと重厚なボディ感を兼ね備える独特のキャラクターで有名なゲイシャ種の栽培で成功、2004年〜2007年までの4年間、ベストオブパナマコーヒーを独占し、ついには今年のロッドからは自社だけのオークションシステムを通して完売したいう。(ベストオブパナマに出品しても1位になるのは当たり前だから出品しなかったとのもっぱらの噂である。)
最高値をつけたロットではUS$100/ポンドに到達、世界のバイヤーからクレイジープライスとのやっかみ半分の声が聞こえたとしても仕方のない所か。
農園主ピーターソン家のレイチェル女史が農園内を案内してくれた。       

そもそもゲイシャ種は1960年代にエチオピアのGeishaエリアより隣国コスタリカの農事研究機関にもたらされ、1963年にパナマに持ち込まれた。
しかしゲイシャ種は生産性が悪いため、栽培する農家が徐々に居なくなり各地に放置された農園に残るのみとなった。
1996年にピーターソン家がエスメラルダ農園を買ったときも、ゲイシャは手付かずの状態で放置されていたが、彼らはそのキャラクターにいち早く気付きメンテナンスし販促することを決めた。
結果は上で述べた通りである。
ちなみに現在生産していて高い評価を得ているゲイシャはその時に残って居た木であり、新植した木はまだ生産していない。
果たして古い木でなければ、あの独特のキャラクターにならないのかはまだわからないのだそうだ。
他の農家もこぞってここ数年ゲイシャを植え始めているが、一部を除いて生産が軌道に乗るまでには至っていない。
地元では運が良かったのだという声もあるようだが、かなりの急斜面で見事に手入れされた農園を見る限り、独自のノウハウと愛情をもって管理した結果が今の評価であり、それはやはり高い評価であるべきだ。
クロップを実際にカッピングしていないので正当な評価は出来ないが(US$100/ポンドという価格が適正かどうかは別にして)独自のマーケティングでゲイシャ種にスポットを当て成功したエスメラルダ農園は今後の生産者が進むべき道の一つを示しているかもしれない。
また彼らは2008年から レインフォレスト・アライアンスの認証も取得、サステイナブルコーヒーに理解を示している事も好感出来た。

ボケテの町に戻り、パナマコーヒー協会(Asociacon National de Beneficiadores y Exportadores de Cafe de Panama)の会長を務めるノルベルト・スアレス氏と面会。
1971年に最大手生産者、輸出業者、ロースターが話し合い設立された同協会はまさにパナマコーヒー業界の中枢を担う機関であり、スアレス会長は協会の顔とも言える。
同氏の経営する14の農園の内のいくつかを案内してもらいつつ、現在のパナマコーヒー産業の現状をリサーチする。
「パナマは島ではないが、海に囲まれた陸地が細く長く延びており、実質島国気候と大差なく一日の気温の変動が大きい。適度なストレスをコーヒーに与えるのは重要。」
「午後は雲に包まれることが多い為、直射日光に弱いコーヒーの日陰栽培に不可欠なシェイドツリーが不要であるらしく、農園経営の考えの中に日陰栽培の概念が占める割合が他国に比べて低い」
「火山性の土壌ではあるが森が豊富な事でよく土地が肥えており、高地である事と重なり高いレベルの栽培条件が揃っている。」>

 

いかつい風貌のスワレス氏だが中身は非常に
スマートなジェントルマンだった
「パナマ政府もかかわって国レベルでの認証制度を準備しているとの事。パナマの名を冠したコーヒーには一定レベルの管理(トレーサビリティー等)を義務づけるという。」
ノルベルト・スアレス氏の説明は簡潔で力強く、パナマコーヒーの可能性を感じさせてくれるものだった。視察で日本にも訪れるとの事、再会を約束し同氏と別れる。
隣国コロンビアと比べるとボディ感に乏しく、やもすると中庸なキャラクターの印象が強かったパナマコーヒーだったが今回の視察で感じたのは1200〜1300m以上のの高地であれば十分スペシャルティコーヒーの生産環境に値するものが得られ、非常に高い意識と理想でコーヒー栽培を行う生産者達は自分たちの得たアドバンテージを活かす事に気がついていると言う事だ。
エスメラルダ農園の成功ばかりがクローズアップされがちだが、数年後にはパナマコーヒーが世界のコーヒーマーケットを席巻している状況が見られるかもしれない。
駆け足であったが三日間でここに紹介出来なかった農園も視察、全ての農園で今年のクロップのサンプルを依頼してボケテの町を離れた。
久々にサンプルの到着が待ち遠しい、帰国してからはそんな日々が続いている。

ヒロコーヒー
焙煎責任者 山本光弘