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2011年現在、コーヒー生産国では一時的な開発やコーヒーのみを栽培するプランテーション栽培などによる森林伐採、そして地球温暖化の問題が深刻なものとなっている。
こうした深刻な森林伐採から森を守ろうと取り組まれている方法の一つに「熱帯の庭園」という名前で 呼ばれる『アグロフォレストリー(森林農法)』というシステムが注目されている。
アメリカの南に位置するメキシコでアグロフォレストリー(森林農法)は生まれた。この国は世界で最初に コーヒーの有機栽培に取り組んだ国の一つだとも言われている。
メキシコでは昔から、このシステムを用いたコーヒー栽培が、さまざまな先住民族によって行われてきた。彼らは、さまざまな方法での資源活用を身に付けて おり、自らの宇宙観と関わり合いながら生物多様性を守り、森を活用してきた。そして彼らは保護すると同時に何百年もの時間をかけて森というのをデザインしてきた。そうして生まれてきたのが、アグロフォレストリーである。 |
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メキシコにおけるコーヒー栽培の特徴として挙げられるのはふたつある。
まずひとつめは生産に携わる先住民族の比率が高いということである。
コーヒーの生産も販売も含めこの分野に関わっている人の数は約300万人で、そのうち60% 近くがメキシコで知られている56の先住民族のうちの30の民族に属している。
彼らは18世紀末、ヨーロッパを通じてメキシコにコーヒーが導入されて以来、 アグロフォレストリー(森林農法)と呼ばれる伝統的な栽培方法によって森の中でさまざまな樹木や作物と共にコーヒーを育ててきた。
また、ふたつめの特徴としては、コーヒー生産地域の分布が非常に広いという ことである。そして、これらのコーヒー生産地帯は偶然にも、メキシコに おけるホットスポット(生物の宝庫と呼ばれる地域)と、ほぼ完全に一致する。つまりコーヒー 栽培地域は、豊かな生物多様性を誇るばかりでなく、さまざまな先住民族が 織りなす多様な文化や伝統が息づいている場所なのだ。
コーヒーに限った事ではないが現在主流のプランテーション栽培(一つの作物のみを大量に生産する)について述べておくと、これはアグロフォレストリーとは 全く逆のシステムである。これは、 近代的な手法によってつくりあげられたもので生態系を全く無視した場所になっている。プランテーションで生産する場合、まず商業栽培の部分だけを残し て、原生種を始め、すべての樹木を切り払う。またプランテーション栽培を維持するためには、非常に集中的に農薬などを使う必要が出てくる。土地を傷めつ けてしまうこの方法は、限られた期間しか栽培することができない。
これは、先住民が自然の生態系を活かしながらデザインし、森自身が再生する力を持ったアグロフォレストリーシステムとは全く異なる。
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では具体的にアグロフォレストリーとはどういう農法なのだろうか。
オアハカ州プルマ・イダルゴ地方のある農園を例に見てみよう。
水はけのよい地盤に腐葉土が堆積した有機質に富んだ土壌で良質のコーヒー産地にあるクルス・グランデ農園。まず驚くのはその園内にある樹木の多様性だ。
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これだけティピカが残っている産地はもう残っていないかもしれない |
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園内でランチミーティング。生産者とのコミュニーケーションは重要な情報源 |
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本来の生態系を活用して出来上がったものであるため、森の豊かさや生物多様性を保護する場所にもなっている。また商業作物を導入することで、森から収入を得ることができ、自家用の作物なども得られる。この農園では1ヘクタールあたり150種ほどの有 用な作物が生産されておりこの森がどれほど生物的に豊かであるかということがわかる。
問題もある。
アグロフォレストリーはあまり森に手を入れないので機械の導入が難しく、一番重要な収穫を人の手に頼らざるを得ない。
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特に比較的小規模なクルス・グランデ 農園では人材不足が深刻で、収穫期にコーヒーピッカーと呼ばれる人員を確保出来ずにコーヒーチェリーが収穫されないまま放置されるケースも多いらしい。(隣国グァテマラのインフェルト農園ではアグロフォレストリーを保ったまま大規模化に成功、収穫期にはコーヒーピッカーを従来の倍以上の条件で雇い入れる事で各地から良質豆を収穫出来る優秀な人材が殺到、結果的に品評会優勝という品質向上をもたらす好循環が生まれるケースも) |
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原住民族のコーヒーピッカー。収穫期になると各地から集まってくる |
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アグロフォレストリーの森は二酸化炭素を吸収するという機能を持っている他野生生物たちが暮らす場所としても役立っている。メキシコ国内だけでも 1,000種類近くの鳥類が絶滅の危機に瀕しておりアグロフォレストリーの森はこの鳥類にとっても最後の隠れ家でもあるのだ。この地に暮らす先住民たちはアグロフォレストリーの森を作り上げていく中で、自分たちの文化や伝統、そして暮らしをもつくってきた。つまりこの森は経済的や環境的のみならず、社会的にも文化的にもそして歴史的にも重要な意味を持つ場所となっているのである。 |
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計画的に整備されたコーヒー園は美しい |
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ことコーヒー栽培に関して言えば標高1400mを超える高緯度に位置するクルス・グランデ農園は恵まれている。アルゴビア農園のある標高900m周辺はコーヒー栽培地としてはあまり良い条件とは言えない。
19世紀の終わりにドイツ移民が切り開いた農園は現在第4世代のギースマン氏によって運営されている。低緯度で栽培されるロブスタ種中心の農園であった為 (インスタント加工がメインのロブスタは低級グレードの扱いとされる。特にメキシコ・ロブスタはほぼ100%US行)あまり我々のアンテナにはかかってこなかったのだが、自身の情報不足を恥じる程の取り組みが為されていた。
アグロフォレストリーのお手本とも言えそうな多様性に富んだ園で栽培された豆を製品化する為の様々なシステム。伝統的な木製蔵のエイジングやみみずを使った土壌改良、バイオ排水処理、精製時に出る廃棄物のたい肥化など、近年になって各国から注目されつつあるシステムが実際に運用されている。
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メキシコ・コーヒー界の大物でもあるギースマン氏。予定にはなかったが急遽自ら園のガイド役を買って出てくれた |
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築100年の木製倉庫は優しくコーヒーの水分値を調整する |
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観光農園としてもエコツーリズムを積極的に受け入れ環境運動の啓蒙にも積極的に動き、日本を始めアメリカ、EUの各有機認証と熱 帯雨林保全を目的にしたレインフォレストアライアンス、渡り鳥を保護するバードフレンドリーの認証を修得している。
しかし、そんな園の設備に圧倒された私にギースマン氏が最後に見せてくれたのは先住民族の写真だった。
「これだけの設備を用意しても、この人たちがいないとどうにもならないだよ」 |
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原住民族のコーヒーピッカー。収穫期になると各地から集まってくる |
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「未来を考える事の重要さ」子供の笑顔は当たり前の様にそれを教えてくれる |
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メキシコに限らずアグロフォレストリーによる持続可能なコーヒー生産を守り伝えていくことは、この地に暮らすさまざまな動植物を守るだけでなくそれぞれの先住民族がコーヒー栽培を通して築いてきた文化、伝統、知恵を守り伝えていくという点でも非常に重要なのものなのだ。
我々が進めるサステイナブルコーヒーの取り組みと同義ではあるが、当たり前の事を当たり前の事として続けて行く事の難しさと重要さ。
そんな事を教えてもらったメキシコの取り組みだった。
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ヒロコーヒー
焙煎責任者 山本光弘 |