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今、日本では何やら「北欧」がトレンドである。
ファッションやファニチャー、ステーショナリーなど多くの北欧ブランドが相次いで上陸し各種メディアの「北欧」特集を目にされた方も多いのではないだろうか。 実はこの「北欧」ブランドブーム、コーヒーマーケットでは随分以前から世界的潮流となっている。すっかりおなじみとなったサードウェーブ コーヒーやバリスタの世界選手権などの芽はすべて北欧で生まれ、最近では東京や福岡に北欧の老舗カフェが海外初出店して話題を集めた。
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SOHOに良いカフェが集中する法則
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北欧をコーヒーの聖地と呼ぶ関係者も多く、現地でのコーヒー一杯に込められる技術や思いは相当非常に強い。
データでもそれは顕著に表れている。国際コーヒー機関ICOの統計によると2013年度に発表された世界1人当たりのコーヒー消費量は、日本が3.3kg、英国2.8kg、アメリカ合衆国4.2kgに対し、フィンランド12kg、ノルウェー8.7kg、デンマーク8.6kg、スウェーデン7.3kgと北欧勢の圧倒的な コーヒー消費率が見てとれる。 |
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深い知識を持ち合わせていなくても「コーヒーが大好きで毎日飲んでいる」という人が圧倒的に多い北欧。スウェーデンでは親しい人とともにコーヒーやお茶を飲みながら過ごす時間を「フィーカ/Fika」と呼び、生活の中に深く根差している。
この北欧の地で2015年6月、ヨーロッパスペシャルティコーヒーの大会が開催された。この時期は「国中が太陽の光に溢れ幸せに包まれる」 という北欧の人々が待ちわびた季節。鋭い日差し、急速に色づく草花、ともに過ごす家族、恋人、そしてすべての人が愛おしく思えるスペシャル・シーズン。以下はそんな北欧全体が浮き足立つ「夏至祭(サンクトハンス・アフテン:聖ヨハネの夜)」のカフェ雑感。 |
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コーヒーマンの中で北欧コーヒーの大きな特徴と認識されているファクターは「すっきりとしたキレの良さのなかにワインのようにフルーティな味わいと香りが広がる浅煎り豆」そして「その品質を確実に再現する高い技術力」だ。これには「豆の鮮度や品質が良いこと」と「現場の技術力」が絶対条件。事実、北欧には各国のトップスペシャルティコーヒーが集まり、ワールドバリスタチャンピオンが何人も輩出され、小規模なロースターが現在の北欧コーヒーの波を後押ししている。
ただ、現地で実際に様々なロースターやカフェを回ると「北欧コーヒー」=「浅煎りのスペシャルティ」といったパターン一辺倒ではない事が見えてきた。街中のショップ棚には浅煎り以外にも様々なローストレベルのコーヒーが並び、安価な地元チェーンが繁盛する隣で小規模ロースターのショップも賑わう。北欧では様々なスタイルと味、品質のコーヒーがそれぞれのシーンに合わせて楽しまれる土壌がある事が見てとれる。
様々なコーヒー消費国の事情を視察してきた筆者にはこの両極端な光景が成立している所に一番興味を惹かれた。
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こちらがコーヒーマンと分かればどんどん工房の中まで 案内してくれるのは万国共通
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ドリップ技術はカフェによってかなり差があった
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総じて人気店になるほどスタッフのレベル (知識・技術・接客)は高かった
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もちろんサードウェイブカフェが集中するアメリカ西海岸でも同じ光景を目にする事は出来るが「生活へのフィット感」が確実に違う様に思える。トップグレードの商品を楽しむマニア層と日常的にコマーシャルなカップを楽しむ一般層に二極化するのではなく、いろんな年代層が共にいろんなカップを楽しむ土壌が整っているのだ。 |
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バリスタの世界チャンピオンを多数排出する カフェには北欧中から客が集まる
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他所の土地では二極化しがちな消費マーケットが程よく重なり世界一の消費エリアとなっている北欧諸国はいったい何が違うのだろう?
そこには高緯度で長く厳しい冬と一瞬ともおもえる短い夏を繰り返し体験してきた国民性が起因する部分を筆者は否定しない。皆さんは北国生まれの人が冬を嫌いであったり南国うまれの人が夏を嫌いであったりするのをあまり聞いた事がないと思う。彼らはその両方を享受出来る国民性を有しているのだ。
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長い冬の中、北極圏に浮かぶオーロラの美しさと強い日差しに若葉が輝く公園でのピクニックの楽しさを知る彼らは深煎りコーヒーの香味と浅煎りコーヒーの華やかなフレーバーを楽しめる感性を持ち合わせている。(だからこその個人コーヒー消費量世界トップとも言える)
実はこのいいとこ取りで楽しむという事は嗜好性の強いもの程、高い感性が要求される。音楽を例にとってみよう。
演歌を好む年配者が最先端のEDMが流れるクラブで楽しめるだろうか?
アイドルの曲はイントロで曲名が分かる若者がワグナーの曲を何曲知っているかとなるとなかなか難しいのではないか。
コーヒーもしかり。世界一の嗜好飲料を好む人々は多いがそのジャンル内の大部分の要素を堪能しているとは言いがたい。むしろその中で自分に一番フィットする部分(好みの味)を繰り返し楽しむ事が本流ともいえる。この様な先入観を持たず本質的な部分を捉えつつ、多くの可能性を楽しむ北欧マーケットの順応性がこの地の大きな特徴といえるのではないだ ろうか。
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倉庫や古い家屋に据え付けられた最新ロースターの存在感
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22時でもこの明るさ!この行列!
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コールドブリューの小瓶がブレイク中
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地元ロースターが手がけるアンテナショップは 資本投資の方向性が明確で非常に興味深かった
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音楽ファンが未知の領域へ足を踏み入れる時によく利用するのがそのジャンルのコンピレーションアルバムだ。作品全体の雰囲気も含めて厳選された楽曲が収録されたコンピレーションアルバムであれば(海外作家による洗練された短編集の様に)自由かつ自然にその世界に浸ることができる。
コーヒーでもこの方式は成立する。
様々なロースターのコーヒーを取り扱う「セレクト・コーヒー・ショップ」がそれだ。サードウェイブカフェから派生したセレクト系ショップはオリジナリティにこだわるのではなくバラエティさと高い抽出技術を売り物に世界中でその数をふやしているが、北欧では随分以前から第三極として認知されている。北欧のコーヒー業界は各ロースター達の関係が非常に良好で相互に情報交換や研究開発が活発に行われているのはコーヒー業界ではよく知られる所だが、これも「セレクト・コーヒー・ショップ」が生まれた要因のひとつだろう。 |
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カフェのメニューも多彩だ。 北欧コーヒーを一気に大きなムーブメントへと導いた浅煎り中心のブリューワーコーヒーは各ショップのプライド(イチ推し)カップが揃う。
カプチーノは伝統的なヨーロッパスタイルとシアトルスタイルのものが混在する。日本発祥のコールド・ブリュー(アイスコーヒー)はこぞって地元ロースターがオリジナル商品を作り上げていた。 エスプレッソの楽しみ方もひと味違う。
通常はどの消費国もある程度こだわりのあるロースターでしかチョイス出来る通常はどの消費国もある程度こだわりのあるロースターでしかチョイス出来るショップは見当たらないものだが、今回の北欧視察でお邪魔した カフェの多くでエスプレッソをオーダーすると数アイテムの中から(中煎り〜極深煎り)選ぶ事ができた。
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夏にピッタリ♪エスプレッソ・トニック
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オーストラリアでサマードリンクとしてブレイクしたエスプレッソ・トニックも発祥は北欧だ。トニックウォーターとエスプレッソのシンプルなシグネチャーは爽やかな薫りとキレの良いあと口が特徴で、実際に夏の北欧でこれを飲むと高緯度から照りつける日差しと乾燥した気候に実 に良く合う。
福祉が厚い分、物価が非常に高い北欧諸国にあって(軽いランチで毎回3,000円が飛んで行く!)コーヒーの単価はかなり安価に設定されている。平均的なショップでエスプレッソが約300円、最高品質カップで1,500円の設定は平均年収1,000万の国民にとって懐に優しい嗜好品だといえる。 |
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SCAE会場となったゴースタワー
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今回の北欧行最大の目的地はヨーロッパスペシャルティコーヒーSpecialityCoffee Association of Europe (SCAE)の大会が開催されたスウェーデン第二の都市ヨーテボリ。美しい港町である。
SCAEの大会はこのヨーテボリ最大の展示場で三日間に渡って開催された。会場内にはヨーロッパメーカーを中心に各企業ブースと地元のカフェチェーン、生産国のプレゼンテーションや各国の代表が世界一を競う各競技会が行われ、世界中からコーヒー関係者が集まってきた静かな港街は夏至祭と相まって大変な賑わいを見せていた。 |
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ところで北欧各国の例に漏れず地元に根ざしたロースターやチェーン店、昔ながらのカフェテラスが共存するこの街で生まれた最新のムーブメントをご存知だろうか? 北欧JAZZ、またはスウェーデニッシュJAZZ。
高品位で透明感にあふれた北欧JAZZはそれまでヨーロッパで主流だった重くクラJAZZ要素は皆無)と全く違う解釈でJAZZを料理して全く新しいジャンルを構築した。北欧JAZZはいまやひとつのジャンルとして認知され、様々なアーティスト(ヨーテボリを活動拠点とするピアノプレイヤーLars Jonson、姉妹よるスライド・トロンボーン・デュオSliding Hammersや伝記映画『ストックホルムでワルツを』が日本でも公開され再注目されているMonica Zetterlundは是非お聴き頂きたい)が世界的にブレイクする段階となっている。 |
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会場内では各世界大会が実施され大変な盛り上がりを見せていた
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地元カフェのブースは大盛況
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「重厚なJAZZもいいが、たまには軽やかにJAZZを楽しみたい」
「伝統的なカプチーノもいいけど、明るく爽やかな酸を味わうブリュワーコーヒーも」
両方を存分に楽しめる北欧人達の感性には脱帽である。
深夜のクラブで食後のカプチーノ片手に聴くフレンチJAZZは魅力的だ。
ただ浅煎りの爽やかなコーヒーや北欧JAZZはもう少し軽やかで風通しがいい所で楽しみたい。
穏やかな午後の時間が合うだろう。
夜景よりは昼間の明るい光の中、景色をのんびり眺めながらもいいはず。
いや、憂鬱な雨降りの休日にもいいかもしれない。 |
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ヒロコーヒー
焙煎責任者 山本光弘 |
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