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アドリア海に面したイタリアの高級リゾート地、リミニ。
エチオピアで発見されたコーヒーは回教徒によって広まり14世紀にオスマン・トルコ帝国の勢力拡大と共にイタリア北部の商業都市国家に伝わった。その後、イタリアでは16世紀初頭にはコーヒーハウスが生まれ、人々には無くてはならない嗜好品へと定着した歴史がある。 |
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2014年6月、このコーヒーカルチャーがヨーロッパ・スペシャルティコーヒー協会(Speciality Coffee Association of Europe:SCAE)の年次大会という形で500年の時を経て北部の街リミニへ戻ってきた。
リミニへはボローニャの街から列車で1時間半。切符の買い方など分からない筆者は普通車の2等席で無料のサウナ付きの非常に快適な車両を選択(特急なら50分、もちろん冷房車だったらしい)、この際たまたまボローニャの駅で居合わせた日本の若者と同じ列車になったのだが、聞くところによるとリゾートの街リミニはホテルが高く、ボローニャからリミニで行われている競技会に通っているのだという。 |
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報道等でご存知の方も多いとは思うので詳細は割愛させて頂くが、今回の大会に合わせて開催された様々なコーヒー関連競技のうち(非公式も含め)バリスタ競技とエアロ・プレスとよばれる抽出器具で2人の日本人が優勝した。このサウナ列車の若者がエアロ・プレス優勝した事を伝える新聞を見たのはその翌日。お見事! |
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ヨーロッパでは夏のリゾートして日本では考えられない程の知名度を誇るリミニの街は大会に集まってきた各国のコーヒー関係者で賑わっていた。 |
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ここで少しイタリアのコーヒーについて補足しておく。
もちろん主流はエスプレッソで主にバールと呼ばれる店で楽しまれるが、観光地等ではフランス風のカフェテラス式のショップも多い(ギャルソンはいないが)。両者の主な違いはカウンターでの立ち飲みかテイクアウトが主流のバールに比べてカフェテラス式のショップはフルサービスが基本。
料金もカフェテラスが1.5倍程度高い様だ。
少し散策しただけでも魅力的なカフェがいくつも見つかるほどコーヒーは生活の中にとけ込んでいる。
その中で一点気がついた事がある。
インディペンデント系チェーンや個人店が多いのだ。
よく見るとコーヒーに限らずファッションやグロッサリーでも外資系のブランドが極端に少なく、あったとしても極端な関税の影響で驚く様なプライスが付いている。 |
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どうやら閉鎖的なイタリア経済は外資が進出してくるのをヨシとしない様である。ChloeやLULU GUINNESSなど日本ではポピュラーなヨーロッパブランドですら空港の免税ショップでしか見かけなかった。
ロンドン、ミュンヘン、ウィーンなどヨーロッパの各都市でのショップの選択肢の多さに圧倒されるのとは対照的だ。
ロンドンの駅ナカではおにぎりを売っているし、ウィーンには行列のできるラーメン屋がある。しかしイタリア滞在中はついぞイタリアン以外の食事にありつく事は出来なかった。 |
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この保守的な経済にはマフィアの力が及んでいるという噂もあるが、多くのイタリア人たちは
私たちはおいしいピザを知っている。
おいしいエスプレッソを知っている。
おいしいティラミスを知っている。
でも、世界のことは何も知らない。
と自国の閉鎖的なマーケットを揶揄っている。
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SCAE会場でもその一旦は伺えた。
近年アメリカやオーストラリア、2年前のSCAEウィーン大会では世界各国のメーカーやサプライヤーが所狭しとブースを並べていたが、今回目に付いたのは地元イタリアブランド。世界的な潮流となっているDripやPour-Over式のデモも極端に少なくエスプレッッソのオンパレードでイタリア式保守経済の考え方がコーヒーでも実感出来た。
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しかし筆者はこれを否定するつもりはない。
いや、むしろ街に溢れる素晴しいバールやカフェを体験すれば多くの人がコーヒーにおける"イタリアン・ガラパゴス・カルチャー"を堪能するはずだ。
話し好きのオーナーに腕の確かなバリスタ。
モデルと見紛おうばかりのウェイトレスとやたら話しかけてくる地元民。
繁盛店内に溢れるエネルギーたるやアルコールこそ飲んでいないがイギリスのPubに通じるものがある。
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コーヒーやアルコールはそもそも嗜好品だ。では嗜好品とは何か?
@「必須のエネルギー、栄養分」は期待しない
A「必須の薬効」は期待しない
B「必須の生命維持効果」は期待しない
C 上記のいずれも期待しないのに人々を虜にする常習性がある
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嗜好品は人々の気分を落ち着け、ときに高揚させる。
嗜好品がもたらされたときその功罪をめぐっては大きな議論を呼ぶが、必須食物ではないコーヒーが、ことイタリアに限っては「君たちはそれ飲まないと死んでしまうのか?」と聞きたくなる程、飲まれている。
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イタリアでのアルコールと聞くと多くの人がワインを思い浮かべるだろう。
しかしイタリア人は決して酔うためにワインを飲んでいるのではない。
酔っ払うことは美学的にも問題であり、そんな姿を見られることは不名誉である以上に本当にかっこ悪い事とされる。
そんな酩酊を嫌うイタリア人が毎日何度でも飲む飲み物がコーヒーである。
彼らは日本人がストレス解消や疲労回復を名目にしばしば酒を飲むところコーヒーの覚醒作用で代替えしているといえるかもしれない。
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覚醒を得る為に多くのコーヒーを口に運ぶ。
その際、より成分の強いエスプレッソに嗜好が偏る。
道理にかなっているではないか。
保守の考え方は彼らのコーヒーに対する嗜好にも活きているのだ。
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意外ではあるがイタリアでは世界中で見かけるカフェチェーンS社のサインは見当たらない。
そもそもシアトル発祥のS社は"1983年に店舗運営とマーケティング部門の役員として入社した現在CEOがイタリアのバールで飲んだエスプレッソの味に感動し会社にエスプレッソ・カフェの展開を提案した経緯がある。
"A year later, in 1983, He traveled to Italy and became captivated with Italian coffee bars and the romance of the coffee experience. He had a vision to bring the Italian coffeehouse tradition back to the United States. A place for conversation and a sense of community. "(S社HPより抜粋)
それならば一層、本場での出店も視野に入れてとなりそうだがS社はイタリアへの出店は考えなかった様だ。
何杯も口にしなければならない(笑)必須飲料のエスプレッソがチェーン店価格では敬遠されるのは明らかであるからS社の判断は賢明だといえる。
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コーヒー好きで知られるイタリア人は80%の人が1日に3杯のエスプレッソを飲むといわれている。
しかしユーロ圏での経済競争や消費税増税の影響で物価の底上げが起こり、以前は安価であったエスプレッソも€1〜3(140〜420円)と倍近い金額となった。貧困層が手軽に何杯も飲める物では無くなったのだ。
そんな中、イタリアで生まれた"カフェ・ソスペーゾ"(手を付けるのを止めたコーヒー)運動が世界に広まっている。 |
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お金に余裕のある人が店員に2杯のコーヒーを注文し、1杯は手を付けずに残していく。
店員も心得たもので、そのまま冷めたコーヒーを片隅に置いておく。
その後、懐の寂しい人が来て小声で「カフェ・ソスペーゾはあるかい」と尋ねると、さっきのコーヒーが出てくるというわけだ。
陽気なイタリア人が隣人へ向ける優しさ、それを受け入れる社会、優しさを必要とする人々。
かつて日本には「友愛」を口にして隣人愛を世界中に謳った裏で母親から数億円の小遣いを貰いつつ、寄付を施した話など全く聞かない政治家がいたが、イタリアのバールには企業が仕掛ける「作られた居場所」よりはるかに心地よい空間があった。
イタリアに「サード・プレイス」はいらない。 |
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ヒロコーヒー
焙煎責任者 山本光弘 |
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