農園紀行 Single estate
 

 
フェアトレードという言葉をご存知だろうか?
直訳すれば「公正な貿易」。
では、何が公正なのか?
それは生産者に支払われる賃金だ。
安全な方法で作られた農産物を都会の消費者に届ける日本の産直運動でも野菜などを作る生産者に支払われる代金は「再生産可能な価格」つまり安全で安心な作物を継続的に安心して作ってもらえる価格を保障している。

フェアトレードも同じ考え方だ。
現在我々が取り組むサスティナブルコーヒーの中でもフェアトレードはかなり目的が特定されたの認証プログラムなので「取引に際しては現地を直に確認する」事は非常に重要でここではコロンビアのある農協が取り組むフェアトレードを紹介したい。

コロンビアの南西部ウィラ県(Huila)の南に位置するティマナ自治区(Timana)。
ここでは小規模生産者が集まり農協組織を作る事で窓口を一本化、交渉力を高める事で他地域との差別化を図ってきた。
 
よく肥えた土地に広がるコーヒー園。石けんとジャスミンがブレンドされた様な心地よい薫りが広がる。
 

フェアトレードとはいえ品質が第一。カッッピングセッション後のディスカッションにも自然と力が入る。
  収穫が増えるハイブリット品種の栽培や化学肥料の使用は結果的に土壌そのものを退化させてしまうことを経験的によく理解しているティマナの生産者達はこれまでも伝統的な品種と栽培方法をかたくなに守ってきた。

政治的に不安定な土地であった事、地理的なハンディがあり情報が少なかった事も良かったのだろう。

ともすれば自分達が続けてきたやり方がどんなに素晴らしいものであったか気付かずに 安易な植え替えや農薬使用に走りがちな小規模農家が多い中ティマナの生産者達は旧来の生産を続ける事で自分達のカップを守ってきた。
 

通気性を高めた高床式のパティオ
 
山間を行き来する為の野猿も
  ティマナ生産地の多くは山岳地帯で、平地はほとんどない。

栽培するスペースはおろか、精製や乾燥等に使用する場所や住居さえ山の急斜面に建っているのはザラだ。

そんな地理的ハンデもコーヒー生産が生活と密接に繋がるティマナの人たちにとってはあまり気にはならないのだろう。

当然の様にコーヒー畑には急斜面を行き来する為のロープや野猿(やえん)が張り巡らされ、貴重な平面である住居の屋根には手製の乾燥場(パティオ)が備わる。
 

フェアトレードは寄附ではない。
途上国の人たちに支払うお金は商品の代金であり、賃金である事が重要だ。様々な組織による海外への援助に関して「援助慣れ」という問題がある。寄付などで援助をしてしまうと人びとに自分たち自身の力で現状を変えようという気持ちがなくなり自立心を摘んでしまうケースがあるのだという。

あまり知られていないがフェアトレードには「提携型」と「認証型」ふたつの種類がある。
両者は同じ「フェアトレード」という言葉を使っているが全く別物だ。

提携型のフェアトレードは生産者を支援団体が直接資金的にも技術的にも支援し、作られた商品を直接買い取り、日本など先進国で販売する形のフェ アトレードのことを言う。日本ではこちらのフェアトレードの方が一般的で、歴史も長い。

一方、認証型のフェアトレードは、認証ラベルを商品に付けるタイプのフェアトレードのこと。
フェアトレードの認証団体が、そこで作った生産・労働基準に従って生産され労働者の雇用条件が守られた 農園なり生産施設を認証団体が認証することで、認証ラベルの使用権が与えられ、商品にラベルを付けて販売することができるようになる。我々が扱うコーヒーもこの認証型だ。

認証型は、その仕組みは実はとても複雑なのだが、商品にラベルが付いていることで、フェアト レードであることが一目瞭然でわかりやすい。認証型には認証組織というものがあり、そこがフェアトレードの認証を行ったり、販売者や輸入者などの業者にライセンスを与えたりして、認証ラベルによるフェアトレードを成り立たせている。
提携型と認証型のフェアトレードの最大の違いは、「生産者にお金を支払うか、彼らからお金をもらうか」の違いだ。提携型の方では、自分たちが支援する農民なり、作業所なりといったところから、直接商品を買い取る。反面、認証型では、生産者(農園や組合)からお 金をとって、フェアトレードの認証を行う。商品の買い取りはしないし、買い取り量(数)の保証もしない。買い取りは、彼らが「バイヤー」と呼んでいる業者 が行い、バイヤーがフェアトレード価格で生産者から商品を買い取る。バイヤーになるには、認証組織からライセンスを得なければならない。ライセンス料の支払いがここで生じる。輸出業者や卸業者のライセンスもある。
とにかく消費者の手に直接渡る最終商品の形になるまでは、流通のあらゆる段階でフェアトレード商品の流通に関わる業者にライセンスの取得が求められる。そして、それぞれにライセンス料の支払いが、フェアトレード認証団体から求められる。ここまで説明して気づく人も多いと思うが、フェアトレード認証組織は商品の買い取りにも販売にも、全く関わっていない。これが良いか悪いかの意見は別の問題なので割愛するが、公平性を保つ反面、後述する急激な相場の変動などに対応出来ないデメリットがあるのは事実だ。

 

予定時間を大きくオーバーしてこの後もコーヒー談義に花が咲き結局もう一泊する事に(笑)
  ステレオタイプ的な生産者像を語るのは難しいが、少なくとも今回訪問したティマナ自治区の生産者達の表情は総じて明るくコーヒー栽培自体がビジネスとして十分成立している事がよく分かった。

町中では大型のピックアップが走り、商店には品物が並ぶ。ある生産者の子供達は大学まで進み、将来の進路を自分で決める事が出来るという。(日本人の感覚では当たり前かもしれないが非常に恵まれたケースだろう)
 
大きな要因は何か?

近年、コーヒーの供給不足が問題となる中、産地では情報化が進み生産者は販売先を選ぶ事が出来ている。
生産者にイニシアティブがある訳だ。

だが賃金が上がれば生産者は裕福となる反面、価格の高騰は消費離れの一面を持つ。
実際、価格の乱高下によってコーヒー産業が壊滅状態に陥った生産国もある。

逆に賃金が下がれば生産者は疲弊し、コーヒー産業が先細る。
 
麓の街に戻る頃には深夜に。
 

フェアトレードはボランティア的な気持ちや利潤の追求といった一方の思惑が強いアクセレーター(一方通行)であってはならない。

サステイナブルな取り組みが崩れる場合、往々にして消費側と供給側の負荷バランスが悪い事が多い。
一方的な条件が混在してはその意味合いが全く違うものとなるのだ。フェアトレードとは双方にとって「公正」なものである事が重要で、それこそがこの活動において最重要項目だ。そうでなくとも近年のコーヒー相場の変動に伴いフェアトレードラベルを添付する事で生産者の取り分が減る「逆ざや」現象も見られる。消費側のボランティア意識はまったくの見当違いで、あくまで決め手になるのは、価格であり、実績であり、信頼だ。

消費側と生産側。
双方がwin-winの関係を保つ仕組みとしてのフェアトレードの今後は両者のバランスワーク次第。
その鍵を握るのが両者をつなぐ我々コーヒーマンであり、使命でもある。

「フェアトレード」とは何がフェアなのか?
今後もこの命題について考えていく事をお約束し、機会を見てお話出来ればと思う。

ヒロコーヒー
焙煎責任者 山本光弘